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多難な時代に「三方良し」の精神こそ

紛争や災害が相次ぎ、物価高騰、国際社会の分断など多難な時代を迎えています。
ロシアのウクライナ侵攻は3年近くに及び、イスラエルとハマスの戦闘を端緒に中東情勢も流動化して先行きが見通せません。多くの一般市民の犠牲を強く憂慮するとともに戦闘行為が一刻も早く終結し、人々が安心して暮らせるようになることを願うばかりです。

社長就任3年目の私は、昨年も南米や欧州をはじめ多くの国々を訪ねました。行く先々で国際紛争や資源・素材価格の高騰などが経済や人々の暮らしに影を落としていることを実感しました。特に欧州では、ウクライナへの支援疲れが目立ち、右派勢力が伸長してドイツやフランスなどで内政が混乱し、EU(欧州連合)の枠組みが揺らいでいるとの感を強くしました。

生鮮食品や花卉(かき)類の輸出入に特化した貿易商社のわが社にとって、こうした国際情勢はビジネスに大きく影響します。とりわけ昨今の為替相場の急激な変動は、常に注視しながら立ち向かうしかありません。日米の金利差などから異常な円安が続き、輸入にばかり偏れば危うく、輸出とのバランスが課題です。

このため、東南アジアなどの約20か国に向け、鮮魚や和牛、酒、調味料といった国産食材の輸出にも力を入れ、リスクヘッジに努めています。なかでもインドネシア向けが伸び、サウジアラビアやUAEを中心とした中東諸国への輸出も開始しました。食料の多くを海外に依存する日本ですが、食料安保の観点からも輸出増は国内の生産者を育て、食料自給率の向上にもつながります。

1973年の創業から半世紀余り、幾多の時代の荒波にもまれながらも、わが社は堅実な歩みを続けてまいりました。経営の安定化と持続的な発展を目指し、昨年、ホールディングス(持株会社)体制へ移行しました。主力の北極圏のサーモンの輸入を充実させ、ベトナムでの花卉生産は順調に推移しており、新たにスペインの豚肉やニュージーランドの酒類の輸入も本格化させました。

「失われた30年」と言われた日本経済もようやく回復の兆しが見えます。日本の潜在力はまだまだ捨てたものではありません。少子化や労働人口減少など問題はさまざまですが、喫緊の課題は人材への投資です。

さらなるステップアップに向け、強固な組織を目指すわが社にとっても人材の確保・育成が第一と考え、昨年も企業理念を体現する優秀な社員には大幅な賃上げを実行しました。若手社員にも積極的に海外出張をさせ、現場を経験させるとともに、取引先との信頼関係を築くための素養や人間力を養うための研修を実施しています。社員の長期休暇取得を促進し、ワークライバランスの充実にも取り組んでいきます。

同時に管理体制を充実させ、拡大する事業に対応していくことが肝要です。少人数で最大の成果をあげるために、DX(デジタルトランスフォーメーション)に徹底的に取り組み、業務効率化を図っていきます。

2025年も国際紛争が絶えず、「地球沸騰化」とさえ言われる気候変動の影響も予測されます。米国のトランプ政権の復活をはじめ、世界を大きく変容させかねない要因が目白押しで、国際情勢の不透明感はますます強まっています。将来の予測が難しい状況下でも未来の成功につながる「種」をまくことが重要です。

刻一刻と状況が変わる中、高い信頼と安全性を備えた優れた商品を見いだし、調達するのが貿易ビジネスの醍醐味です。やりがいがあり、こんな素晴らしいビジネスはありません。ただ取り巻く環境は今まで以上のスピードで変化しており、今後ますます多様化するニーズに応えていくことが求められます。強みのある「食」を中心に培ってきた国際的なネットワーク、パートナーシップ、ノウハウを最大限に生かして着実にビジネスを成長させていく所存です。

それぞれ歴史観も宗教観も違い、文化や暮らしのあり方も異なる海外の人々とビジネスを通して互いにコミュニケーションを深めていくことも、私たち商社パーソンの使命です。小さな力かもしれませんが、こつこつと交流を積み重ねていくことが世界平和につながると確信しています。創業者の米田多智夫会長の経営理念である「三方良し」(売り手良し、買い手良し、世間良し)の精神を引き継ぎながら、基本に忠実にやるべきことをやり、地に足を着けて、より良い未来に挑戦し続けたいと考えております。

2025年1月
オーシャン貿易株式会社 代表取締役社長

金子 直樹